STORY
はじまり
私は、眠っていた。 夢のなかでこどもの頃にかえっていた。
ゆりかごの中で人形と一緒に。 海の中でゆらゆらと揺れるように。
それはとても幸せで二度と還ってはこないはずの時間。
束の間、甦る記憶の中にひたっていたのだ。
だが、気付く。
私がいるのはゆりかごではない。
何もない真っ暗な空間。いや、真っ暗な闇というのとも違う。
そうか、闇ではなく全てが光なのだ。
光りだけならば影もなく闇もないのは当然なのだ。
・・・では、私は?
私がいるのになぜ影はできないのだろう?
私はいったい何者だっただろうか?
そして、いつどうしてこの光の世界にたどりついたのだろう?
そのときだった。
さらなる光を感じ振り返ると、七色に光る美しい鳥が現れていた。
こんな鳥は見たことがない。
あまりの美しさに私は立ちすくんだ・・・。
ゆりかごの中で人形と一緒に。 海の中でゆらゆらと揺れるように。
それはとても幸せで二度と還ってはこないはずの時間。
束の間、甦る記憶の中にひたっていたのだ。
だが、気付く。
私がいるのはゆりかごではない。
何もない真っ暗な空間。いや、真っ暗な闇というのとも違う。
そうか、闇ではなく全てが光なのだ。
光りだけならば影もなく闇もないのは当然なのだ。
・・・では、私は?
私がいるのになぜ影はできないのだろう?
私はいったい何者だっただろうか?
そして、いつどうしてこの光の世界にたどりついたのだろう?
そのときだった。
さらなる光を感じ振り返ると、七色に光る美しい鳥が現れていた。
こんな鳥は見たことがない。
あまりの美しさに私は立ちすくんだ・・・。
美しい鳥の導いた場所
いつの間にか、川べりの道を歩いている。
この道は覚えがある。
いや、覚えがあるどころか毎日通っているではないか。
とたんに記憶が甦ってくる。
そうだ、ここは私の家からほど近い、毎日どこへ行くにも通る道だ。
大きな川に沿って、季節や天気で変わる水の匂いを感じながら歩くのだ。
でも何かおかしい。確かに間違いなく近所の道なのに、何かわからない違和感。
それにしても私はなぜこの道を歩いているのだろうか。
どこへ行くためだっただろうか・・?
そう思いながら歩いていると、向こう側から小さな少女が見えた。
赤いランドセルを背負った少女。学校の帰り道だろうか。
だんだんとお互いに近づき、すれ違うと思った瞬間、少女が足を止めた。
そしてなぜか私も・・・。
大きな瞳をみひらき、不思議そうに私を見つめる少女の瞳。
私はそこにうつる自分の姿を見た。
恐ろしい瞬間だった。
私の姿が映った少女の瞳は私の持つ瞳と全く同じカタチ・同じ色・・・。
まるであわせ鏡のようだ。
あまりのことに声も出せず立ちすくむ私に、少女は「じゃあね」と言い
軽やかに立ち去って行った。
唐突によみがえる記憶。
あの少女は幼い頃のワタシだ。確かに、小さな頃、大きな自分に出会っていた。
一度も思い出したことがなかったのに、まるで今見たような鮮明な記憶。
いや、今、見たのだ。この目で。あの目で。
あの少女はこの川べりを歩き、その向こうにある小さな一軒家へと帰っていくのだ。
私はそこへは帰れない。
なぜなら。私はそう、たぶん死んだのだ。
この道は覚えがある。
いや、覚えがあるどころか毎日通っているではないか。
とたんに記憶が甦ってくる。
そうだ、ここは私の家からほど近い、毎日どこへ行くにも通る道だ。
大きな川に沿って、季節や天気で変わる水の匂いを感じながら歩くのだ。
でも何かおかしい。確かに間違いなく近所の道なのに、何かわからない違和感。
それにしても私はなぜこの道を歩いているのだろうか。
どこへ行くためだっただろうか・・?
そう思いながら歩いていると、向こう側から小さな少女が見えた。
赤いランドセルを背負った少女。学校の帰り道だろうか。
だんだんとお互いに近づき、すれ違うと思った瞬間、少女が足を止めた。
そしてなぜか私も・・・。
大きな瞳をみひらき、不思議そうに私を見つめる少女の瞳。
私はそこにうつる自分の姿を見た。
恐ろしい瞬間だった。
私の姿が映った少女の瞳は私の持つ瞳と全く同じカタチ・同じ色・・・。
まるであわせ鏡のようだ。
あまりのことに声も出せず立ちすくむ私に、少女は「じゃあね」と言い
軽やかに立ち去って行った。
唐突によみがえる記憶。
あの少女は幼い頃のワタシだ。確かに、小さな頃、大きな自分に出会っていた。
一度も思い出したことがなかったのに、まるで今見たような鮮明な記憶。
いや、今、見たのだ。この目で。あの目で。
あの少女はこの川べりを歩き、その向こうにある小さな一軒家へと帰っていくのだ。
私はそこへは帰れない。
なぜなら。私はそう、たぶん死んだのだ。
裁判
死んだという自覚の生まれた私。
だからと言ってどうすればいいのだろう。
死んだのに私はここにいるではないか。
それとももう私はどこにもいないのだろうか。
では、いま現に「わたし」だと思っている私は何者なのだろうか。
あの美しい鳥が私の前に立ちはだかり、たたみかけるように問いかけてくる。
「お前はどう生きてきた?」
「ここからお前はどこへ行く?」
「お前は二度と戻れぬ世界への執着を捨てる勇気があるか?」
「お前の払った犠牲に意味はあるか?」
「お前は何のために存在しているのか?」
何もわからぬ私に決断を迫るように羽ばたく七色の翼に私はなすすべもない。
ただ呆然とするだけの私に、美しい鳥はある情景を見せた。
それは私が残してきた大事な青年の姿だった・・・。
だからと言ってどうすればいいのだろう。
死んだのに私はここにいるではないか。
それとももう私はどこにもいないのだろうか。
では、いま現に「わたし」だと思っている私は何者なのだろうか。
あの美しい鳥が私の前に立ちはだかり、たたみかけるように問いかけてくる。
「お前はどう生きてきた?」
「ここからお前はどこへ行く?」
「お前は二度と戻れぬ世界への執着を捨てる勇気があるか?」
「お前の払った犠牲に意味はあるか?」
「お前は何のために存在しているのか?」
何もわからぬ私に決断を迫るように羽ばたく七色の翼に私はなすすべもない。
ただ呆然とするだけの私に、美しい鳥はある情景を見せた。
それは私が残してきた大事な青年の姿だった・・・。
花に託した伝言
彼が見える。
喜びも悲しみも分かち合ってきた彼。
あの人を置いて私はここへ来てしまった。
ストレリチアの花の前で泣いているのが見える。
私が唯一好きだと言った花だ。
そうか、あの花はこの美しい鳥の化身なのだ。
だから私には彼が見えるのだ、ほんのこの束の間のときに。
彼が届かない言葉を花に託すように、私への愛を語る。
私はそれがとてもよく聞こえる。
せつない思いが広がり、それを彼に伝えたいともがいてみる。
しかし、もう私には言葉を交わす唇も、思いを伝える瞳もないのだ。
あるのは、私がわたしであるというこの意識と、薄れゆく記憶だけ。
全てが消えゆくこのとき、だからこそ全てを伝えたい。
まだ、あるのだ。たとえ消えゆく運命でも今はまだ。
あなたの思いは痛いほど私の胸に伝わった。
だから、私の思いも感じて、そして受け取って。
最後の私のコトバを。
そして、あなたはあなたの道を進んで欲しい。それが私の最後の願い・・・。
喜びも悲しみも分かち合ってきた彼。
あの人を置いて私はここへ来てしまった。
ストレリチアの花の前で泣いているのが見える。
私が唯一好きだと言った花だ。
そうか、あの花はこの美しい鳥の化身なのだ。
だから私には彼が見えるのだ、ほんのこの束の間のときに。
彼が届かない言葉を花に託すように、私への愛を語る。
私はそれがとてもよく聞こえる。
せつない思いが広がり、それを彼に伝えたいともがいてみる。
しかし、もう私には言葉を交わす唇も、思いを伝える瞳もないのだ。
あるのは、私がわたしであるというこの意識と、薄れゆく記憶だけ。
全てが消えゆくこのとき、だからこそ全てを伝えたい。
まだ、あるのだ。たとえ消えゆく運命でも今はまだ。
あなたの思いは痛いほど私の胸に伝わった。
だから、私の思いも感じて、そして受け取って。
最後の私のコトバを。
そして、あなたはあなたの道を進んで欲しい。それが私の最後の願い・・・。
そして新たな一歩
彼の姿が遠くにかすみ、彼がかかえていたはずのストレリチアの花は美しい鳥の姿に変わった。
いま見た情景は幻でしかなかったのか…。
そうではない。
私は確かに私がいた世界に束の間戻り、決断までの猶予が与えられたのだ。
あれほど恐ろしく感じた美しい鳥を私は優しい存在と感じるようになっていることに気付いた。
全ての罪が洗い流され、核だけになっていくようなこの感覚。
私をとりかこんでいた全てが、目の前で通り過ぎてゆくように思える。
この渡り廊下のような世界で私は全てを見て、全てを捨ててゆくのか。
さあ、時は満ちた。
そして、私は私が決めた道を行くのだ…。 Fin
いま見た情景は幻でしかなかったのか…。
そうではない。
私は確かに私がいた世界に束の間戻り、決断までの猶予が与えられたのだ。
あれほど恐ろしく感じた美しい鳥を私は優しい存在と感じるようになっていることに気付いた。
全ての罪が洗い流され、核だけになっていくようなこの感覚。
私をとりかこんでいた全てが、目の前で通り過ぎてゆくように思える。
この渡り廊下のような世界で私は全てを見て、全てを捨ててゆくのか。
さあ、時は満ちた。
そして、私は私が決めた道を行くのだ…。 Fin