STORY
シルフィナ3
――私は兄さんを殺した。
精霊が精霊を殺すなど、絶対に許されないことだった。
私は何ていうことをしてしまったのだろう。
でも…でも、これで彼の記憶は戻る。
彼は私の元へ帰ってきてくれる。それだけが希望だった。
あの人に会えるなら、それだけでいい。
私は小屋で彼の帰りを待った。
外の騒がしさに、私は目を覚ました。
泣き疲れ、眠ってしまったらしい。
人間の声、そして精霊の悲鳴。外へ出て見ると、村の方向で煙が上がっている。
何が起きたの?!村へ向かって走り出した。
信じられない光景だった。
精霊が次々と人間に斬られ、森が焼かれていた。
これだけ多くの人間を前にしては、幻術も歯が立たない。
私は村の長老のもとへ急いだ。
「長老様!何が起こっているのです?」
「わからん。突然人間が攻めてきた。ウェリオットを知らぬか?見当たらんのだ。」
「…!」
長老から聞いた。
兄は人間から村を守るため、踏み入ろうとする人間の記憶を奪っていた。
自分の身体を犠牲にして。
先日も、森を焼く計画を立てた国王の記憶を奪ったばかりだという。
しかし、身体が蝕まれていた兄は、力の制御が上手くできず、
国王を死に至らしめてしたったのだと。
「人間は国王の仇だと叫んでおる。しかし、ウェリオットは周りにいた人間たちの記憶も消したと言っていたはずだが…」
私は悟った。
兄さんが死んだことで、その記憶が開放され、人間たちの記憶が蘇ったのだ。
彼の記憶を戻すだけのつもりが、こんなことになるなんて。
私のせいだ。全て私のせいだ…。
「…私が兄さんを殺しました」
長老は私の肩を掴み、見たことの無い形相で叫んだ。
「シルフィナお前はなんてことを!何故そんな…」
そこに人間が踏み込んできた。
目の前にいた長老は斬られ、その剣はそのまま私の首に向かって振り下ろされた。
…が、剣は私の喉元で止まる。
その人間は――レシオだった。
時が止まったように、私たちは見つめ合う。
「何故…君がここに…」
私は彼に語った。
自分は精霊だということ。
国王を殺したのは兄だということ。
あなたを愛しているということ。
そして、そのために自分が犯した罪の全てを。
「迷わず私を殺しなさい」
そう言って、私は彼の記憶を奪った。
――止まった時は動きだし、剣は私の身体を貫いた。彼の手によって。
これで良かったのよ。
奪った記憶は、私の死によってあなたに戻ってしまう。
でもどうか許して。
苦しまないで。
レシオ、あなたに会えてよかった。
Fin