STORY
Cross Fercia
むかしむかし。
神から不思議な力を授けられた者たちがいました。
人はそれを「精霊」と呼びます。
花の精霊。河の精霊。湖の精霊。火の精霊――。
そして、晩秋の頃になると、この森で準備を始めるのが、
”雪の精霊”です。
雨を雪に変えることが、彼らに与えられた役割でした。
彼らは、全てを凍らせることができます。でも、
草木を枯らしたり、生き物を殺めたりはしません。
降り注ぐ雪は、空気を清めます。
積もった雪は、獣たちの休息に暗闇を与えます。
その雪の下に眠る樹木の根や、花の種や、
たくさんの生き物を守っているのです。
やがて春が来ると、
雪は溶け、大地に染みて草木を潤します。
仕事を終えた雪の精霊たちは、
森の中でひっそりと暮らしながら、次の冬を待つのです。
彼らは人間と似た姿をしているといいますが、
その姿を見たという者はいません。
でも、それは違います。
ただ、覚えていないだけことなのです。
彼らが人間に出会ってしまったならば、
その者の記憶を凍らせ、
永遠に溶かすことはないのですから。
そうやって、雪の精霊はこの森に棲んでいたといいます。
いえ、もしかすると、今も暮らしているのかもしれません。
あなたがただ、覚えていないだけのことで…。