STORY
レシオ1
その国は戦火の中にありました。
1つの国との間に始まった小さな戦は、他の国を交え、また他の国を交え、
いつ終わるともわからない争いが、もう何年も続いていました。
国王は倒れ、兵力も落ち、劣勢に立たされながらも、国の存続の為には、
争いを止めるわけにはいかない…。戦が戦を招く、悪循環の中にあったのです。
誰もがささやきはじめました。
この国が落ちるのも時間の問題だと。
そこで、国王の息子、アルバが立ち上がります。
アルバにはある考えがありました。
城の向こうに茂る森。その奥深くには、恐ろしい魔物が住んでいる。
ある者は心臓を奪われ、
ある者は手足をもがれ、
ある者は魂を吸い取られたという。
「魔物の住む森」として言い伝えられるその領域には、誰も近寄らなかった。
ただの噂だと笑い、入って戻って来た者は誰一人いない。
嘘か真か…。
ただ、あの森には、間違いなく“何か”がいる。
アルバは言った。
「魔物の森を切り開くのだ。私は魔物の力を手に入れる…魔物の持つ底知れぬ力を。
そして、必ずこの国に再起と繁栄をもたらすことを約束しよう。」
そうして、数日後の25歳になる誕生日に、アルバは国王の座に就くことが決まったのです。
――いいえ、そのはずでした。
この物語は、アルバの死によって始まるのです。
彼の弟、レシオの、悲しい物語が…。
気がつくと、足元に兄が倒れていた。
仕えの者達が一斉に駆け寄るその様を、僕は呆然と眺める。
大きな満月が、空と、丘と、城と、兄の亡骸を照らしていた。
それは王位継承を祝う式典の前日。
僕は次期国王を殺めた罪人として、囚われの身となる。
王位を狙って兄を殺したのだ…と。
しかしそれは身に覚えの無いことだった。
違う。僕じゃない。僕は兄を殺してなどいない。
――逃げた。
城を抜け出し、闇の中を走り、森を目指した。
すぐに気づかれるのはわかっていた。
馬に跨った騎士達が、剣を振りかざして追ってくる。
裸足のまま、草を掻き分け、息を切らせ、必死で走る。
なぜ逃げなければならないのだろう。
なぜ何も覚えていないのだろう。
本当は…本当は僕が殺したのではないか。
そう思うことで、この煮えきれない苦しみから解放されようともした。
しかし記憶がない。わからない。なぜ、なぜ…。
追っ手はもうすぐ後ろまで迫っていた。もう、ここまでか…。
と、思ったその時、突然馬の足音が止まった。
木陰に隠れ、僕は息を潜めた。
そっと振り返ると、追っ手たちは方向を変え、次々と城へ引き返していく。
やがて馬の足音は遠ざかり、あたりは静寂に包まれた。
悪い夢を見ているのだろうか。
「こっち」
突然、誰かが僕の手を引き、森の更に奥へと走り出す。
月の光が僅かに差し込む、深い、深い森の中。彼女に導かれるまま、走った。
風になびく彼女の髪は、月に照らされ、美しく輝いていた。
キミは…いったい誰?
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