STORY
シルフィナ2
私は彼を小さな小屋へ匿った。
傷の手当てが済んだら、この者の記憶を奪って去ればいいのよ…。
ところが、傷は思いのほか深く、
私は数日間小屋へ通って看病を続けることになった。
「僕はレシオ。君は?」
「…シルフィナ」
それから少しずつ、会話をするようになっていった。
最初は目を見ることもできなかったけれど、 その瞳は優しいことを知った。
いつの間にか、たわいもない話をして笑い合えるようになっていた。
ただ、私も彼もお互いのことは何一つ聞かない。
どうせ記憶を消すのなら、言ってみてはどうだろう。
「私は人間ではない」と。
でも、言えなかった。
レシオと過ごす間の満ち足りた気持ち。
それは、初めての感情だった。
元気になっていく彼の姿が嬉しくもあり、
せつなく感じることに、私は気付いていた。
ある日彼が私をまっすぐに見つめて、「君ずっと一緒にいたい」と言てくれた。
嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。
でも、そんなことができるのかしら。
私は精霊。あなたは人間。…私は答えられなかった。
ところがその翌日、小屋にレシオ姿は無かった。次の日も、その次の日も。
いったいどこへ行ってしまったの?一緒にいたいと言ってくれたのに…。
「あの人間なら、もうここにはいない」
振り返ると兄が立っていた。
「兄さん!彼に何をしたの?」
「お前の記憶を消しただけだ。毎日こそこそと何処へ出かけているのかと思ったら…」
「私は傷の手当てをしていただけよ。記憶は消すつもりだったわ!」
「嘘をつけ!お前はあの人間を…」
「違う!!」
「…じゃあ何故だシルフィナ。何故お前は泣いている?」
涙が止まらなかった。
私はレシオを愛していた。
でも、彼の記憶の中に、私の存在は…もう無い。
嫌。それだけは嫌!彼の記憶を戻す方法はひとつ。
記憶を奪った精霊を殺すこと。
精霊が死ぬ時、奪った記憶は開放されることを、私は知っていた。
怒りと、憎しみで身体が震える。
言葉にならない声で泣き叫び、兄に飛び掛った。
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