17歳で突然、歌手になりたくなったなら【第2回】

microphone

はい、前置きがいつも長いので今回はすぐ続きを書きます。
でも必ず前回の記事から読んでよ。→ 【第1回】はこちら

木村聡子PR
木村はオタクですが本業はプロの歌手・声優です。(ProfileVocal
主な出演作:ディズニー「魔法にかけられて」ジゼル(主役)・「アナと雪の女王」
「美女と野獣2017」・「名探偵コナン~戦慄の楽譜~」千草らら役歌唱 など。
メインのSNSはFacebookで、twitterに転送してます。
Instagram(親バカ写真)もちょこっとやってます。
Welcome Symphony
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アナ雪クリストフ役・原慎一郎さんとの命の誕生の奇跡を
テーマにしたデュエット曲「life」は必聴です!
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◆おかねの話◆

第1回の最後は「あなたの音楽歴、かけてきた時間を考えて間に合うと思いますか?」と問いかけて終わりました。
ですが、その話はいったん保留。
あとで戻りますが、とにかくいまは脇に置いておきます。。。

さて、時間も投資ですけども、投資と言えばやっぱりオカネですな。
私の場合は音楽に関しては大学出るまではほぼ全部親がかりなわけで、つい最近までその意味をあまり深く考えてはいませんでしたが、よくよく振り返ると相当な教育費がかけてもらってきました。
ちょっと書き出してみる。

1.ピアノ
まず楽器代がかかってるよね。私の記憶にある限り、いまある2台(グランドとアップライト)を入れて、歴代で4台のピアノを買っているはず。使ってたのは母・私・弟なので1台分だけ計算するにしても7桁。
個人レッスンは3~10歳までと、15~18歳まで。先生によるけど1回5000円~1万円くらい。
小学校4~5年の音楽教室はいくらか知らないけど、月に2万とかじゃ収まらないと思う。
(追記:当時の価格はわかりませんが、いまだと年間86万円とかだそうな。たっか!)

2.歌
15~18歳までの個人レッスン。週1回。(18歳以降は大学で。)
その当時で1レッスン7000円でした。
高校生のときは歌・ピアノ・ソルフェージュのレッスンで月6万くらいかかってたと思う。
受験直前についてた教授クラスの先生のレッスンは1レッスンで2万円とかだったかな。

3.大学
私立音大というのは私立医大と同じくらい年間学費がかかるですよ。おそろしや。

4.その他諸費用
高校のときにやってたクラリネットやチェンバロ。楽器代(クラは20万弱、チェンバロはかる~く7桁)と1回7000円くらいのレッスン代。
大学受験のためのソルフェージュの家庭教師、1回5000円を月2回。
膨大な量の譜面、CDやDVD、録音・再生のMDウォークマン、コンポ、マイク、ICレコーダー、コピー代、というか結局コピー機買ったし。コンサートのチケット代、発表会の参加費、先生方へのお中元お歳暮、受験のお礼のお金・・・etc。
なんかとにかくいろいろお金かかる!

親に確認とってないので、多少金額の違いはあるかもしれないけどおおむねこんな感じ。
ちゃんと計算するのは不可能なんだけど、総額で8桁は行ってるやね。音楽だけでね。
私は歌だからこのくらいで済んだけど、弦楽器のひとなんかだと楽器だけで9桁とかのひともいるしね。

とにかく音楽はお金がかかる。
そうじゃない人もいるんだろうけど、少なくとも私はすっごくかかってます。
クラシックで音大出身のひとは私立でも公立でも基本的には学費があまり気にならないくらい、それ以外にお金をかけてきた人が多いです。
(まあでも音大で言えば、声楽科が一番かかる金額を抑えることが可能な学部かもね。なんせ楽器タダ。)

ちなみにですけどね、私は音楽以外の普通のお勉強にもけっこうお金を使ってもらっていました。
中学受験では四谷大塚に通って、中学の時も駿台に行ってた。(ちなみに塾で一緒のクラスだった同級生は弁護士になったね・・・)
高校のときは家庭教師と塾の両方。
学校は高校までは国立(こくりつ)だったので、学費は安かった。これだけはいばれるけど。

とりあえずここで言わなくてはなりません。
親、まじサンキュー。

◆環境で作られる格差とその行く先◆

なんでこういう話をしたかというとですね。

ミュージカルやポップスで歌手を目指したい!と16~17歳で突然思い立った場合に、何も知らないがゆえになかなか気づきにくいのだけど。
ライバルには、こうやって小さな頃から親から惜しみない援助を受けてバッチリ教育されてる子がごろごろいるんだってこと。
クラシックだけじゃなくて、ポップスだって最近はレコード会社付属の養成所みたなところに子どもの頃から入ったり、ボイトレ受けてたりする子もたくさんいるんじゃないかしらね。
もしくは子役あがりでお金稼ぎつつ現場で日々精進してる子とかね。
音楽や舞台に対しての熱い情熱だけでは全然戦えない場合もあるよ。

もちろん中には何の経験もないのに、歌がやりたい!と思ったその瞬間からすごくうまくてセンスも良くて、ルックスも良くてあっという間にデビューして売れっ子になっちゃうような「お前はマンガのキャラクターか」というようなヤツもいないわけじゃない。
まあでも、せいぜい1万人に1人とか。もっと少ないか。

だいたいがなんの根拠もなく、プロとして輝かしいステージで歌ってたくさんのファンからちやほやされちゃってセレブな生活ができるという妄想を持ってニヤニヤするのもつかの間、あっという間にそれが打ち砕かれて絶望するパターン。
だって、ライバルにはすでに基礎から音楽をギッチリしこまれた子があちこちに。
何もかも負けててどうしたら挽回できるかさっぱり想像もつかない。
この状況から逃げたい。逃げたい。逃げたい。
そうやってやめていく子がたくさんいます。

でも早い段階で諦めたなら、まだ全然不幸じゃないよ。むしろ幸福。
これからまっとうなおつとめ人になれるチャンス。

一番悲惨なのは、30歳過ぎてもまだ「歌手の卵です」「女優の卵です」とか言っちゃってて、そのまま40歳になって、一生フリーターとかいうパターン。
というか、私が一時期こうなりかけてて、その時は本当にみじめで人生投げ出したかった。

この連載ではこういう時期をリアルに過ごした私だからこそできる、真剣なアドバイスをします。
もしこれを読んでいるあなたがハイティーンで、薄ぼんやり「歌手(ミュージカル俳優)になりたいかも、音大は無理だけどそういう専門学校に行こっかな♪」なんつってかるぅく思ったりしているのなら。

いまから私の言うことをよく聞いてください。

あなたはプロにはなれません!!

幼少からの音楽教育もなく、これからそれを取り戻せるくらいに投資できる資金もないんでしょ?
ひとにはない輝かしいオーラや才能があるって誰もが認めてくれたりしてるわけでもないんでしょ?
あー無理無理!あきらめた方がいいって!

一度きりの人生を音楽や舞台などと言うヤクザな夢でダメにしないで、普通に勉強してまっとうな人生を歩んで、ちゃんとした家庭をもって幸せで堅実な一生を送って暖かいベッドで死にましょう。

以上!
この連載終わり!

なんつって、さすがにそれは嘘々。

◆それでも本当に歌いたい?◆

歌手や俳優をめざすということは。
一度きりの人生を無駄にしてしまうリスクがエベレストレベルで高いこと、よしんばプロになれても長続きできない場合が多くて、さらによしんば長続きできてもそんなに稼げないことがほとんどです。←あたしもだゎ
それを百も承知で、それでもやっぱり歌で仕事がしたいんだ!と本気で思う人だけ読み進めてください。
もうちょっとだけキツイ現実を見てくださいね。

さっき上で書いた、”一生自称歌手・実質中高年フリーター”の話ね。

私も「魔法にかけられて」の転機がなければ、たぶんそうなってたと思うの。
もう手遅れってわかっているのにそこから目をつぶり続けてオバサンになって、アルバイトでその日を食いつないで歳だけとっていく人生。

それでも夢に向かってキラキラがんばれる情熱があればいいだろうけど、たぶん私はそうはなれなかったと思う。いくら音楽が好きでも、誰からも振り向かれずに歌い続ける気力はきっと持てなかった。そして歌う機会もないから歌そのものもヘタになる一方。

私は本当にラッキーで、最後の最後でチャンスが訪れてそれを奇跡的にモノに出来て、それをきっかけにいまの生活をなんとか維持できるようになりました。
そんなに威張れるような優雅な生活じゃないよ、本当に人並みだけど、音楽だけで食えている幸せを毎日毎日かみしめて感謝しています。本当に心から。
だってこれがものすごく特別なことだって私は知っているから。

仕事ができるようになった今だからこそ素直に認められるの、あの当時のみじめさを。
本当にぎりぎりの綱渡りだったんだと、いまでも思い返すとガクブルするんだから。
夢にやぶれて、ワーキングプア状態に陥る人間のなんと多いことか。

目をそらさないで本気で想像してみて。

歌手という夢にかまけているうちに婚活市場で売り抜け損ない、45歳独身のオバサンオジサンになって、6畳1間のボロアパートで一人暮らし。
毎日レジ打ちだか居酒屋だかをはしごしてクタクタになるまで働いて、全く貯金もできないギリギリの生活。
学生時代のお友達は一戸建てを建てて、子どもを私立中学にいれたとかいう風の噂を聞く。
自分との比較なんかしたくないから聞かなかったことにする。
あんなに大好きだったはずの「歌」が一度きりの人生をダメにしたと憎らしく思うようになる。
わたしの人生はこんなはずじゃなかったのに。どこでしくじったんだろう。
何もかも手遅れ。このまま歳をとって貧しい老人になるしかないんだなという恐怖。

17歳のあなたには想像もつかないかもしれない。
だけど誰も時は止められない。
確実に30歳になり、50歳になり、老人になるんだよ。
そのときにお金も家も家族もなかったら?
病気したらどうするの?治療費あるの?死ぬときひとりぼっち?

もう一度言う。目をそらさずにリアルに想像しろ!
あなたが歌手になりたいと言い出して、賭けの対象にしているのは「夢」なんかじゃないよ、あなたのたった1度きりの絶対にやり直しのきかない「人生」そのものだよ。

私はすんでのところでみじめな人生を回避できました、少なくとも今のところは。
それができたのは本当にひとえにあのオーディションが自分のタイミングに一番あったところで受けることができたっていう、信じられないラッキーがあったから。

でもね。
いまも音楽だけで食えているのは、やっぱりラッキーだったからだけじゃない。
全然仕事がなかった間もやめずに歌い続けていて、確実に実力をあげてて、チャンスが訪れたときにきちんとそれを発揮できるように準備ができてたから、そしてそれを持続するだけの努力を続けているからこそのラッキーの成就があったわけです。

わたしは実は若い頃はほんっとーにヘタクソでソロで人前で歌って耐えられるような実力じゃなかったんですよ。
謙遜じゃなくて、マジで。
当たり前ですけど今はそんなことはありませんよ。
そんじょそこらの歌手には負けないよという自負があってこそプロと名乗っています。
そこへ至るまでの道のりはちゃんと自分自身の力で1歩ずつ歩いたんです。
今思うともう少し早足で歩けたんじゃないかと思うけど、でも少なくとも途中で引き返さなかった。

前回は書かなかったけど、実力をあげたのは大学出てすぐにレミゼに出演して、そのあと全然仕事がなくてフリーターやってた時期。
実はわたし、大学出てからはレッスンというものをまったく受けていません。
(英語ディクションだけは外人の先生に一時期習ってた。)
大学ではクラシック声楽しか勉強していないので、ミュージカルやポップスは全部自力で研究・勉強したものです。

その試行錯誤の結果の芽が出たころにちょうど「まほかけ」だったわけです。
そのタイミングはラッキーだったけど、それなりにやることはやってたのですよ。
そこが重要ね、ラッキーを待つだけではモノにできない。
ラッキーは私にとって必要だったけど、プラス努力によって得た実力も同じくらい必要でした。

ラッキーの部分は私にはアドバイス出来ることは何もありません。
でも。

譜面も読めないし、ピアノももちろん弾けないし、音楽に関するモノもなんにも持ってない、体だけ、今から音大受験なんて到底不可能。
そんな子がプロになるための練習方法に関しては、ちょっとは役に立てるかも。

わたしは音楽に関しては最高に恵まれた環境で小さい頃から今までをずっと過ごして来ました。
恵まれすぎてて、子ども時代はそれをうっとうしいとすら思ってたほど。バチあたりね。
そして音楽的なセンスなんかも、もしかすると普通よりはいいものを持って産まれたのかもしれない。
それらにあぐらをかきまくって、たいした努力もせずに(いや、したけども楽しい努力しかしてない)ここまで来られました。

たぶんあなたは私が育ったような恵まれた環境ではないでしょう。
だけど、あなたに本当の情熱があるならば、絶望するのはまだ早いかもよ。
だって逆に言えば、私が親から無償で受け取ったものを、あなたが自力で掴みとればいいってことなんじゃない?
もちろん並大抵のことではないと思うよ。私がしてきた楽しい努力と違って、つらい努力もたくさんしなくては無理だよ。

でも、あなたには、それだけの情熱があるんでしょ?
だからこの記事読んでるんでしょ?違う?

魔法にかけられて以降にプロ志向の生徒たちを見るようになってからの約7年、ずっとそんなことを考えてきました。
次回からは少しずつ具体的な考え方や練習方法やツールみたいなものを紹介してみたいと思います。
ゆっくりな連載になると思いますが、なるべく続けて行ければと思います。

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コメント

  1. […] 前回と前々回はながーい前置き記事を書きました。 全部読みました? だらだらした文章ですが、すごく大事なことを書いていますので、ちゃんと読んで下さいね。 今回から少しずつ具体的なことを書きますけど、今までの前提を読んでないと意味がない場合もありますので、必ず読んでね。→ 【第1回】 【第2回】 […]